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大阪地方裁判所 昭和53年(タ)59号 判決

原告

甲野太郎

原告

乙山花子

原告

丙田次郎

右原告ら訴訟代理人

青野正勝

外四名

被告

大阪地方検察庁

検事正

栗本六郎

主文

一、本籍大阪市港区××町×丁目×番地の××、亡戊田静恵と本籍鹿児島県△△郡△△村△△△△△番地、亡丁川愛吉及び本籍同、亡丁川ツタとの間に親子関係の存しないことを確認する。

二、本籍大阪市港区××町×丁目××番地の××、亡戊田静恵が、本籍鹿児島市○○町○○番地、亡甲野トキの子であることを確認する。

三、訴訟費用は国庫の負担とする。

事実

原告ら訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、請求の原因として次のとおり述べた。

一、亡戊田静恵(本籍大阪市港区××町×丁目××番地の××、最後の住所地同市浪速区◎◎町◎丁目◎◎番地)は、戸籍上では、本籍鹿児島県△△郡△△村△△△△番地戸主丁川愛吉の除籍簿中、右丁川愛吉とその妻丁川ツタの三女として出生の届がなされているが、事実は右愛吉とツタの子ではない。

即ち、亡静恵は、明治三六年二月二八日頃、亡丙田門次(本籍鹿児県△△郡△△村△△△△番地)と亡甲野トキ(本籍鹿児市市○○町○○番地)との間に非嫡出子として出生したものであるが、右門次は静恵を私生子として届出ることをはばかり、右届出を怠つていたものの、明治三九年に至り甲野トキが再び門次の子(春山加つ)を懐胎するに及んで出生届を怠つているわけにはいかず、又、私生子としての届出をしたのでは静恵、加つの将来に支障が生ずるかも知れないと案じ、当時門次が懇意にしていた丁川愛吉に対し愛吉、ツタ夫婦の子として出生届をすることを依頼した。愛吉はその依頼に応じ、明治三九年九月六日、静恵を愛吉、ツタ夫婦の三女として虚偽の出生届をなし、引続き明治三九年一二月二日出生した加つも同月五日、四女として出生届をなした結果、戸籍上その旨の記載がなされたものである。

二、右門次とトキはその後門次の死亡(昭和四年三月三〇日死亡)に至るまで婚姻することなく内縁関係を続け、この間原告甲野太郎、同乙山花子、同丙田次郎が出生し、いずれもトキの非嫡出子として生出届がなされ、原告花子及び次郎については門次の認知を受けたが、原告太郎については甲野家の家名を残すため門次の認知を受けることなく現在に至つた。

又、静恵については、日高夫婦の三女として出生届がなされた後、明治三九年一一月二四日門次と戸籍上養子縁組がなされ、大正二年八月九日、これを協議離縁のうえ同年九月一日、夏田スエと養子縁組がなされて、以後夏田スエに養育され、昭和二二年一二月一日、秋田貢と婚姻し、昭和五二年三月一九日に死亡した。

三、右静恵の死亡により同人につき相続が開始したが、静恵には子がなく、夫貢も昭和二三年一月九日死亡し、直系尊属も既に死亡しており、亡静恵の弟妹にあたる原告らが相続人となるが、前記戸籍上の記載が真実と相違するため、原告らは相続人の証明ができない状態にある。静恵の遺産としては東海銀行難波支店に対する定期預金、株券等が存在し、右支店には預金通帳、株券等が保管されているが、これらの引渡等については相続人たる証明のつかないことを理由として拒絶されているので、本件訴訟において静恵の親子関係の存否の確認を得る必要がある。

被告は本件口頭弁論期日に出頭しないが、その陳述したとみなされた答弁書には「原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする」旨及び「原告ら主張事実のうち、訴外戊田静恵が明治三六年二月二八日訴外亡丁川愛吉、同亡丁川ツタ間の三女として出生した旨の届出がなされた事実及び訴外甲野トキが昭和一一年五月二八日、右静恵が同五二年三月一九日それぞれ死亡した事実はいずれも認めるが、その余の事実は不知」との記載がある。〈以下、事実省略〉

理由

〈証拠〉によれば、亡戊田静恵(本籍、大阪市港区××町×丁目××番地の××、以下静恵と略称)は亡丁川愛吉、同ツタ夫婦(いずれも本籍、鹿児島県△△郡△△村△△△△番地)の三女として明治三六年二月二八日出生として届出がなされているが、同女の出生届出は明治三八年九月一八日生の五男重夫の同年同月二九日付の届出より遅れ、出生より三年余を経過した明治三九年九月三日になされていること、(右夫婦には右静恵を加えて七男四女があるが各出生の届出は同女を除き、すべて即日か或は出生後一〇日内である)、同女は届出のあつた同年一一月二四日、丙田門次の養子縁組をした旨同日届出されたのち、大正二年八月九日、協議離縁し、同年九月一日、夏田スエと養子縁組をしていること、又、右夫婦の四女として届出された加つについては、右愛吉より前記丙田門次宛、加つは丙田門次に当時妻のないため、門次が懇意である丁川愛吉にその四女として出生届を依頼したもので、門次の弐女に相違ない旨証明するとの文書の入れられていること(大正二年五月二七日付)、更に右書面には、静恵、加つ両名につき後日に至り異議のないことなる旨の附記のなされていること、が認められ、これらの事実及び後記認定の請求原因第二項前段の事実に、〈証拠〉を総合すれば、原告が請求原因として主張する第一項の事実を肯認できる。この認定に反する証拠はない。更に〈証拠〉によれば、請求原因第二、三項の事実を認めることができる。

してみると、右静恵は、前記丁川愛吉、同ツタ夫婦の子ではなく、亡甲野トキ(本籍、鹿児島市○○町○○番地)が出産したものであることを肯認できる。

なお、本件は死者相互間の親子関係存否の確認を求めるものであるが、当該親子関係をめぐつて現に紛争が存在し、この紛争を解決するために右親子関係を確定することが有効適切であり、しかも身分関係の画一的解決をはかるのが適当と認められる事情のあるときは、人事訴訟手続法の規定を類推し、右親子の親族は、検察官を相手として死者相互間の親子関係存否の確認を求める利益があるものと解するのが相当であり、本件の前認定のような事情のもとにおいては、本件訴えは確認の利益を有するものとみるのが相当である。〈以下、省略〉

(工藤雅史)

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